碁盤斬り

「碁盤斬り」2024 白石和彌映画・俳優

白石和彌『碁盤斬り』をめぐって

その一方で、この白石和彌監督の『碁盤斬り』は、 江戸情緒を漂わせ、武士道たる死の美学をちらつかせながら、 硬質で静謐な映像に、怒りにも似た倫理的な問いながらに、 異色の時代劇へと押し上げることに成功している。 主演元SMAPの草彅剛が、ここでは脱アイドルの完了形として、 演技における沈黙と間の巧みさ、 言葉を選ぶように語る誠実な声によって、 「語り」の本質を体現しているかのようにみえる。 そこは、ただの演技巧者というより、 どこか“語り部”のような存在として、浪人を体現している。 それは、語られざる誇りと、語りえぬ悔しさ両方を滲ませ臨む 男の美学、すなわち武士の覚悟そのものである。 碁盤という網の目に移し、静かに白黒をつけんとする姿勢は 最後、格之進が振り下ろした刀の結末として だからこそ、いっそう清々しさを禁じ得なかったのである。

ロピュマガジン【ろぐでなし】vol.41 ポストパンデミック後編:シネマでぶらり、映画鑑賞特集映画・俳優

ロピュマガジン【ろぐでなし】vol.41 ポストパンデミック後編:シネマでぶらり、映画鑑賞特集

コロナ禍においては、色々な制限が課されていたこともあり、 映画館へ足を運ぶ機会も意欲も、ずいぶん減ってはいたが、 最近では、気分的にも大きなスクリーンで集中してみる映画体験を 積極的に回帰している自分がいる。 とはいえ、映画を見たい、手軽に見たいという欲望が無くならないが故に、 ストリーミングに頼るという生活もまた、なくなる事はない。 作品を何度も見直すことができるし、 どこでもかからないような、貴重な作品さえも手が届く。 何より、映画を愛するものにとって有難いまでの仕組みが多く提供されている。 いずれにせよ、1本の映画作品の価値は、 形態や見方を変えても変わるわけではない。 その本質を見落としてしまえば、単なる時間の消費に過ぎなくってしまう。