柳町光男『さらば愛おしき大地』をめぐって
迫り来る運命に抗うことができないのはなにも幸雄だけではなく、 そんな男に惚れてしまった秋吉久美子演じる順子もまた同じである。 逆に、その運命の波に飲み込まれてゆく家や大地のたたずまいは あたかも神のように、ただひたすらに不穏に受け止めるしかないのだ。 この映画のたたずまいそのものを終始支えているのはそれだ。 当時からそれ以後へと移りゆく変遷のなかで、 「さらば愛しき大地」を未だ色あせない傑作として記憶にとどめているのは、 何人も抗えぬ大地の重みそのものであり、また美しさなのだと。