白石和彌『碁盤斬り』をめぐって
その一方で、この白石和彌監督の『碁盤斬り』は、 江戸情緒を漂わせ、武士道たる死の美学をちらつかせながら、 硬質で静謐な映像に、怒りにも似た倫理的な問いながらに、 異色の時代劇へと押し上げることに成功している。 主演元SMAPの草彅剛が、ここでは脱アイドルの完了形として、 演技における沈黙と間の巧みさ、 言葉を選ぶように語る誠実な声によって、 「語り」の本質を体現しているかのようにみえる。 そこは、ただの演技巧者というより、 どこか“語り部”のような存在として、浪人を体現している。 それは、語られざる誇りと、語りえぬ悔しさ両方を滲ませ臨む 男の美学、すなわち武士の覚悟そのものである。 碁盤という網の目に移し、静かに白黒をつけんとする姿勢は 最後、格之進が振り下ろした刀の結末として だからこそ、いっそう清々しさを禁じ得なかったのである。