アンドレイ・タルコフスキー『サクリファイス』をめぐって
タルコフスキーという映画作家のスタイルは、 いうまでもなく、独特な世界感を持ち、それを提示することにある。 歴史であれ、SFであれ、 描く世界は、絶えず難解で詩的映像を駆使した現代の寓話だ。 ワンシーンワンカットの長回し、あるいは生き物のようなカメラの移動をもって カラーとモノクロによる映像美を交差させながら、 たくみに水や火、風という元素を、 美的に、あるいは音響として随所にはめ込みながら、 廃墟や劇空間的な見せ方に彩りを添える…… どれもがタルコフスキー独自のスタイルに貫かれているといっていいだろう。 この唯一無二な映画観は、仮に誰かがその影響下にあろうが、 スタイルを表層的に模倣し踏襲しようが、そこに取って代われるものなどないのだ。