キャロル・ブーケ

デジャヴュ 1987 ダニエル・シュミット映画・俳優

ダニエル・シュミット『デ・ジャ・ヴュ』をめぐって

かつて見た夢の残響、それがデジャヴュの正体だとしたら、 どこで、いつ、その光景を見たのかが思い出せない。 ダニエル・シュミットが1990年に発表した幻想的な映画 『デ・ジャ・ヴュ(原題:JENATSCH』からは、 まるで記憶の深層に落ちていった過去の反響のように、 観る者の時間感覚を溶かし、困惑させると同時に 目を閉じてなお匂い立つ気配だけを漂わせている。 その驚きから、人は、ルネ・マグリットの絵画の風景にでもトリップしたかのような、 日常からの逸脱を体験するにちがいないのだ。

欲望の曖昧な対象 1977 ルイス・ブニュエル映画・俳優

ルイス・ブニュエル「欲望の曖昧な対象」をめぐって

物事が成就する事を、唐突に中断させるのはお手の物、 簡単にできるであろうことができなくなる可笑しさ。 蛇の生殺しのような寸止め状態、 そんなシチュエーションを意地悪く愉しみながら 観るものを不安にさせるような演出がお好きなようで、 『皆殺しの天使』では部屋から出られなくなったり 『昇天峠』ではバスがなかなか目的地につかなかったり 『ブルジョワジーの密やかな愉しみ』ではなぜか食事にありつけなかったり、 そしてこの遺作にて傑作たる『欲望の曖昧な対象』では、 目の前の女をついぞモノにできず 性に翻弄されてしまうという展開に、やきもきさせられる。 それにしてもブニュエルという人は真面目にふざけるひとである。