エマニュエル・セニエ

赤い航路 1992 ロマン・ポランスキー映画・俳優

ポランスキー『赤い航路』をめぐって

男の愚かさと哀しさ、女のしたたかさと執拗さの交差するフィルム。 おまけに暴力と官能とが絶妙にしのぎを削りながら これでもかこれでもかと執拗に翻弄を繰り返す倒錯的復讐と性愛のドラマ、 そんなポランスキーの『赤い航路』にはやはりそそられるものがある。 一見すると、ブニュエルの遺作にも近い雰囲気を漂わせている。 そう、目の前の女をモノに出来ないブルジョワ男の話 『欲望の曖昧な対象』を思い浮かべているのだが、 こちら『赤い航路』の場合は、女をモノにしたは良いが そこから複雑な悲劇を抱え込む自称作家が語る痴情である。 どちらもいい歳をした中年男が若い美女に翻弄される、 という図式は共通項ではあるが、決定的な違いが両者にはある。 政治色がらみの皮肉というかブラックジョークで満そうとするブニュエル、 一方ポランスキーの場合は、もっとドロドロとした欲望の矛先が 他者に向けられるのだ、それもかなり陰湿に。 精神的な領域にまでズカズカ出入りしてくる話として、 複雑な心理をもった人間たちを登場させ交差させ煽る。 恨み、辛みとともに、人間の背徳性をひたすら掻き立て それを倒錯的に浮かび上がらせるのが半ば享楽であり、 次第に責任を他人に転嫁してゆくことに熱を注ぐという、 ポランスキーならではの嗜好性が如実に反映されている映画である。