加山雄三

乱れ雲 1967 成瀬巳喜男映画・俳優

成瀬巳喜男『乱れ雲』をめぐって

成瀬巳喜男による遺作『乱れ雲』は 一見よく似たタイトルの傑作『浮雲』ほどにドロドロとした男女のもつれこそないが 名匠これにて完、まさに万感の思いの込められたラストが実に感慨深い。 いうなれば、ハッピーエンドには至らないが その過程を見守るだけのメロドラマ、である。 男と女がそこにいるだけで、絵になるのだが、 それが全くくどくもなく、どこまでもさりげないのが味である。 最後にして大傑作、とまであがめたてまつるつもりもないが 最後まで“らしさ”を失わず、匠の集大成ここにあり、 これぞメロドラマの名匠ダグラス・サークに匹敵する名作であり 成瀬恋しやたる、実に名残惜しい遺作として それを謳いたくなるほどに、この『乱れ雲』が愛おしい。

赤ひげ 1965 黒澤明映画・俳優

黒澤明『赤ひげ 』をめぐって

黒澤作品のなかでも、人気、評価の高い1本である『赤ひげ』は この年(1965年)の日本映画の興行収入ランキングで堂々第1位を記録している。 モノクロ作品にもかかわらず、髭を赤く染めてまで挑んだという 世界のミフネ演ずる赤ひげ先生を筆頭に、 藤原釜足、志村喬、左卜全、土屋嘉男、山崎努など 馴染みの黒澤組俳優たちがしっかり脇を固め、 そこへ若き医師役に若大将こと加山雄三を中心に その両親には、ちょっとした顔出し程度とはいえ 田中絹代に笠智衆まで贅沢にあてがわれている。 大根で頭を殴られるほどの強欲非道な淫売屋女将に杉村春子、 小津や溝口作品では見ることにない体当たりの狂女に香川京子など、 黒澤作品には珍しく、色とりどりの女たちによる映画でもある。