ヴェンダース

二条城 アンゼルム・キーファー『ソラリス』展アート・デザイン・写真

『アンゼルム・キーファー:ソラリス』展のあとに

その日、僕は雨の降る京都の街に降り立ち、 二条城を舞台にしたアンゼルム・キーファー展『ソラリス』へと向かった。 それは単なる美術展を超える、一つの事件のようなものだという直感があったが、 果たして、どんなものなのか、あらかじめ情報などほぼないままに足を運んだ。 場はまさに、時空を超えて響く「詩的な修復儀式」を呼び覚まし、 歴史の焦土に立ち尽くす者のための沈黙のレクイエムとして、 まるで、歴史の裂け目を埋め合わせるかのような巨大な作品が 谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』を思い出すまでもなく、 重く陰影を帯びながら、奥ゆかしいまでに場に佇んでいた。

東京物語 1953 小津安二郎映画・俳優

小津安二郎『東京物語』をめぐって

何に対してなのか、わからない感情。 それはおそらく孤独を味わったことのあるものへの 共感なのかもしれない。 あるいは、物語に入れ込むことによるまなざしの同化であろうか、 失われたもの、失われつつあるものへの孤独な眼差し。 ひとりで生きてゆくことの厳格なたたずみに伏した涙を そこでそっと胸にしまいなおす行為の美しさ。 ぼくは久しぶりに味わった新たな『東京物語』の哀愁の前に 自分が失ってきたものの幻影を重ねているのだろうか?