おおまがじーん

おおまがじーん
おおまがじーん。LOPYUDESIGNによるZINEプロジェクトシリーズ

たそがれにドキッ、ZINEにドキッ

黄昏どきのことを、日本語で「逢魔時(おおまがどき)」と呼ぶ。実に美しく妖しい日本語ではないか。
日が落ち、闇がまだ訪れきらぬあいまいな時刻。人の世と異界が入り混じり、いつもの道に魔が潜むと言われた時間帯。この響きが格別なのだ。「おおまがじーん」と名付けられたZINEたちは、まさにその境界の感覚を受け継いでいる、私的で、詩的に編集した媒体である。

雑誌(magazine)でもなく、書籍でもなく、誰かの個人的な声や表現を束ねてつくるZINE。そこには既存の出版物が取りこぼしてきた断片、周縁に押しやられた声、境界線でふと立ち止まる眼差しが集まる。ZINEは本来、手のひらで回覧されるような小さなメディアだが、その小ささこそが、「逢魔時」と同じように、異界への入口であり、まだ言葉になりきらない想いを立ち上げる格好の場なのだ。

「おおまがじーん」という名前には、ふたつの響きが重なっている。
ひとつは「逢魔時」の響き。光と闇が混じり合う不安定な時、私たちは世界の見え方を疑い、現実と幻想の境界を漂う。もうひとつは「マガジン」という言葉。情報を束ね、発信し、人と人をつなげる器の響き。このふたつを掛け合わせることで、「おおまがじーん」は、単なる冊子から、境界を編集するZINEとして生まれ変わるだろう。

このZINEの目的は明確だ。それは、既存の大きなメディアでは拾えない“境界の声”を可視化すること。たとえば、誰も気づかない日常の隙間に宿る異物感。言葉で説明しきれないが、心に残ってしまう奇妙な余韻。あるいは、誰かの頭の中だけで形づくられる妄想の断片の数々。それらを集めて編み直し、一冊のかたちにまとめることで、時代の奥行きをすくいとりたい思いから立ち上げたプロジェクトだ。

ここでは、デザインを単なる表層の美ではなく、記録と批評の行為として捉えている。ロゴひとつ、レイアウト一つにも、その背後に潜む思想やこだわりがあるのを感じ取ってほしい。それを掘り起こし、組み替えることで、見えなかった物語が立ち上がることを切に願う。巷のZINEづくりもまた同じだろう。紙とインク、文字と画像。そのシンプルな構造を通じて、LOPYUDESIGNは「境界で生まれる表現」を独自に編んでいく。

ZINEという形を選んだのには理由がある。インターネットが日常を覆い尽くすこの時代において、情報は無限に流れ込み、しかしすぐに忘れ去られていく。ZINEはその逆を行く。小部数、手触り、アナログ。作り手と受け手の距離が近いからこそ、一冊の存在感はより強く残るはずだ。ZINEを手に取り読むことは、情報を消費するのではなく、声を受け止め、対話することに近い。その密やかな体験が「逢魔時」の暗がりにも似ているのだと思う。

「おおまがじーん」が扱うのは、必ずしも“整った”物語である必要はない。むしろ未完成の思考、矛盾を抱えた声、奇妙にねじれたイメージ。そう、ぼくがこのチャンネルで展開してきた、あらゆる表現が母体だ。そうした“異質な断片”をそのまま許容することが、このZINEの姿勢である。黄昏のように明確な輪郭を持たない表現のほうが、むしろ時代の本質を映し出すに違いないのだ。正しさよりも揺らぎを、完成よりも試行を、普遍よりも個を。そうした態度のなかに、未来の表現の可能性を見出したいのだ。

だから「おおまがじーん」は、読む人それぞれに異なる姿で立ち上がってくれることを信じたい。ある人にとっては実験的なアートブック。ある人にとっては詩や日記の延長。あるいは、単なる寄せ集めの印刷物にしか見えないかもしれない。だがその多義性こそが狙いだ。読者ひとりひとりの中で、境界線が揺らぐ瞬間、逢魔時のような違和感と親密さが同居する瞬間が訪れたなら、「おおまがじーん」は存在理由を果たしたことになる。

本ZINEはまだ始まりにすぎない。LOPYUDESIGNが誇るキャラクターシリーズから厳選した、第一号『きゃらあくたあ100選』、続く第二弾『NINE LIVES』には虹の橋を渡った愛猫に捧げる思いを託した。ここからさらに、枝分かれするように、新しい声やイメージが連なっていく予定である。シリーズとして続くのか、一度きりの幻になるのかも、まだわからない。しかし、確かなのは「おおまがじーん」が黄昏に立つ灯火のように、誰かの眼差しをほんの一瞬でも照らし出す形態であること、内容が共感、共鳴の輪を広げるものであることを心から願っているということだ。

黄昏はやがて夜に溶ける。しかし、その刹那の光と影が交わる時間こそが、もっとも豊かな想像を生む。
「おおまがじーん」は、その逢魔時のためにあるのだ。

MAGAーZINE LIST

【MZ001】きゃらあくたあず・・・オリジナルキャラクター100選

きゃらあくたあず・・・オリジナルキャラクター100選

タイトル:きゃらあくたあ
サイズ:A5スクエアサイズ
ページ数:108ページ

ベジエで編まれた造形キャラクラーたちを、空想科学的にキャラクタライズされ個としての命を吹き込んだシリーズからの100選をA5スクエアサイズで本にしました。

【MZ002】NINE LIVES・・・愛猫あっぴゅんメモリー

NINE LIVES・・・愛猫あっぴゅんメモリー

タイトル:NINE LIVES
サイズ:A5サイズ
ページ数:28ページ

2024年8月31日に虹の橋を渡った愛猫あっぴゅんへの思いを本にしました。18年間ともに暮らした思い出の写真と、猫そのものに対しての愛着を言葉にした本です。