NICO Photo by Fiona Adams/Redferns映画・俳優

スザンナ・ニッキアレッリ『Nico, 1988』をめぐって

ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの歌姫で知られる伝説のシンガー、 ニコについての伝記映画、スザンナ・ニッキアレッリによる『Nico, 1988』を観た。 アラン・ドロンとの間に生まれた一粒種の息子アリと、 休暇で訪れていたスペインのイビサ島で自転車から転倒し頭部を強打し 49歳でその生涯を終えたのが、1988年7月18日のことだった。 映画は、ニコの晩年の二年間をめぐるドキュメントとして その痛ましい姿にスポットライトが浴びる格好で描かれている。

『ENO』 2025 ギャリー・ハストウィット映画・俳優

ゲイリー・ハストウィット『Eno』をめぐって

ブライアン・イーノのドキュメンタリー『Eno』 この映画の宣伝句は“毎回ちがう”だ。 Brain One(ブライアンとかけてる?)という自動編集が、 二度と同じ並びにならない映像を繰り出すという。 仕掛けとしては見事だし、確かに斬新だ。 ぼくはこの“何がでるかな?”に釣られて映画館へ向かったのである。 けれど、いざスクリーンの前に座ると、掴んだ核はそこではなかった。 変わるのは編集、変わらないのはイーノ本人の場の力。 笑う時の目尻、言い淀みの間合い、機材に手を伸ばす前の気配。 その生の温度が、編集の妙よりも長く残った。

「ボブ・マーリー:ONE LOVE」2024 レイナルド・マーカス・グリーン映画・俳優

レイナルド・マーカス・グリーン『ボブ・マーリー:ONE LOVE』をめぐって

レイナルド・マーカス・グリーン監督による『ボブ・マーリー:ONE LOVE』は、 単なる音楽の回顧ではなく、ボブ・マーリーというひとりの人間が 時代と社会に対してどんな戦いを挑み、どんな和解を果たしたか? その魂の遍歴を描いた映画である。 音楽ファン、レゲエファン、誰もが知るレジェンドを いま改めて振り返るいいタイミングがやってきたのだ。

ONE PLUS ONE 1968 JEAN・LUC=GODARD映画・俳優

ジャン=リュック・ゴダール『ワン・プラス・ワン』をめぐって

1968年、パリは燃え、学生たちは石を投げ、 体制への懐疑が世界を包んでいた。 ジャン=リュック・ゴダールはそんな五月革命の気運にのって トリュフォーやルイ・マルらとカンヌ国際映画祭を中止へと追い込んだ。 そして、ロンドンのローリング・ストーンズのレコーディング風景を 手持ちカメラの長回しでもって映画に取り込んだ。 ミック以下、若きストーンズの面々の貴重なレコーディング風景が はっきり映りこんでいる。 だが、音楽を期待しようものなら、じつに退屈にもみえる。 高揚なんかしやしない。 ブライアン・ジョーンズが未だバンドにいて、 その貴重な姿があるからといって、だまされはしないのだ。 音楽好きはむろん、ストーンズ好きにしても、 そう簡単にだまされはしないと思う。

デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム 2023 ブレット・モーゲン映画・俳優

『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』をめぐって

あまりにまばゆい存在を前にしたとき、 人はしばしば「見ていない」ことに気づかない。 ブレット・モーゲンによるデヴィッド・ボウイのドキュメンタリー映画 『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム(月世界の白昼夢)』は、 その矛盾を鮮やかに描いた華やかなドキュメンタリーだ。 デビッド・ボウイ財団初の公式認定映画ということで、 30年にわたりボウイ自身が保管していた膨大な量のアーカイブから 厳選された未公開映像をもとに編集された内容は、 ボウイ本人によるナレーションによる哲学をも織り交ぜ、 ファンにとっては見応え、聞き応え、申し分ないものだった。

佐渡岳利 2019 NO SMOKING映画・俳優

佐渡岳利 『NO SMOKING』をめぐって

「音楽とは、風景のようなものだと思う」と、細野晴臣はどこかで語っていた。 それはおそらく、時間を切り取って情熱的に表現するものではなく、 ただそこに在り、耳にふと触れ、気づけば心に棲みついているような存在。 その活動50周年を記念して制作された 佐渡岳利によるドキュメンタリー映画『NO SMOKING』では、 そんな彼の音楽と人生を、まるで柔らかな風がページをめくるように、 静かに辿ってゆく。 観終えたとき、私たちの中に残るのは、かならずしも伝説や栄光ではない。 むしろ“人としての細野晴臣”、そのゆるやかで、しなやかで、 ふしぎに温かな「空気感」が漂ってくる。

コリン・カリー・グループ ライヒ《18人の音楽家のための音楽》音楽

スティーブ・ライヒ《18人の音楽家のための音楽》をめぐって

先日、生でこの音楽を体験できた。 会場は、同じく、ライヒ自身によるお墨付きの 「視覚的にもサウンド的も素晴らしい」と太鼓判を押した場所である。 生まれて初めて、クラシックホール「オペラシティ」での 音楽演奏会鑑賞体験というわけだったが、 演奏は、これまた、ライヒお墨付き、 「現役打楽器奏者の中で最も優れた演奏家のひとり」 そう評価されたコリン・カリー率いる18人のメンバー。 申し分のない条件だ。 コリン・カーリー・グループによる演奏による 波動の音浴の気持ち良さを言葉にするのはあまりに野暮というものだが、 掛け値なしにエレガントなまでに、天上的世界があった。 それは、これまでずっとひとりでヘッドホンの中に築いてきた音の疑似空間が、 突然現実の空間に引き出されたかのような、夢のようなひとときでもあった。

映画・俳優

ロピュマガジン【ろぐでなし】vol.43 季節の終わりの音めぐり寄稿

まだ、暑さが周りに居座っているうちに、この企画を立ち上げておこうと思う。 コラムは、別段、夏という季節に固執するわけでもないが、 音楽は一年中、あるものでありながらも 季節の移ろいにも敏感であり、その影響を受けないではいられない。 夏真っ盛りよりも、すこし陰を帯びた、 失いゆく夏の終わりの時間の方にそそれらる身としては、 そんな思いに乗じて、音楽について、いつものように、ダラダラと 今のぼくのアンテナ、好みに従って刻印しておこうと思う。

AMERICAN UTOPIA 2020 SPIKE LEE映画・俳優

スパイク・リー『AMERICAN UTOPIA』をめぐって

トーキング・ヘッズの伝説のライブ映画『STOP MAKING SENSE』の感動は 40年たった今も忘れてはいない。 (いみじくも4Kレストアでの公開がきまったおりだ) ダブダブのスーツを着込んだデイヴィッド・バーンの、 クニャクニャダンスが目に焼き付いて離れない。 何より、トーキング・ヘッズ全盛期、 その音楽のカッコよさは、サントラを聴いても今なお十分高揚感がある。 時代が変わり、デイヴィッド・バーンもそれなりに歳をとり 今度はスパイク・リーと組んで、『AMERICAN UTOPIA』という またもやご機嫌な映画を届けてくれた。 集大成? いやいや、新たな歴史がここに始まった、 そう言っても過言ではないだろう。