タルポ道場

タルポ道場

ではグッドナイト! お寝みなさい 今晩あなたの夢はきっといつもとは違うでしょう。

稲垣足穂

否世垣ホタルのタルポライター道場訓

ついかなるときも理屈に振り回されず
んでもありらんあっけらかんと胸をはるべし
をむけるもよしせっせウヒヒとつき進むもよし
をはるもよしはらぬもよし
などつかうことなかれ主義
ーら、できたる自慢のほら話、大法螺吹きの真骨頂。
いあんを素でよろこぶ心根を保ちつつも
んるん流浪の己をゆけ

否世垣ホタル師範代からのメッセージ

理屈なんざいらないよ。もちろん退屈もいらないし。でもね、もしだよ、お主が仮にこの地上に飽きたと申すなら、とびきりしゃれた星たちの会話が飛び交う場所へでもいってみてだね、その、あの、この、まずは自身のくすんだ眼球に星クズなんかさぁっと解かし込んだり、ほうきぼしなんてなものをさらっと流してごらんなさいな。なあに、痛いことなんてないから。そこにいたい、と思うだけの話。それにはまず、ちょっとばかり現実を忘れてだね、自由気ままにあたまの中身をそっくり銀河系にかえなきゃならんねぇ。旅する靴が必要だと申すなら、この場所で自分で御用達しておくれよ。なあに、窮屈感じるならべつに素足だってかまやしないんだから。ここじゃシロウトはだしだってクロウトはだしだってなんだって歓迎オープンマインド。ただし、夢の扉を開けちまってウトウトしてきたら、素直に退散してくれてOK。睡眠の海をスイミングしてだね、ハミングしてだね、リフレッシュして戻ってくりゃいいさ。当道場は、そんなライター志望のやからのために、真昼間から星を掲げて、道場を構えてやってますぞ。
てな訳で、早速タルポ道場をば体験いただこうか。

光の串の話

否世垣

さっきまで雨雲だった空から光の剣がいくつも飛び出して、おやまあ、気分屋の空だこと。見上げても素通り、というのがおおかたの反応でも、何人かのお人よしをもずに倣いて電信柱に串刺しにして知らぬ顔。
それでもわらっていたのは救いで、おかげで、こっちは通り過ぎることができた

手のひら芸者の話

否世垣

ぼくは、手のひらを陽にかざしたわけだが、すると手のひらは透けて見えた。なぜか骨は見当たらず。
そのなかでは、お色気たっぷりの金魚が媚態をふりまきながらゆらゆらしていた。あきらかに、お遊びであったが、まるでこしまきをひらひらさせて踊る地方のベテラン芸者風、だったので、思わず赤くなった。

透明くん、こんにちは

否世垣

雨が降り出したので傘を慌ててひろげたから、傘の上の水滴がびっくりしたみたいに飛び散った。地面に落ちてバウンドするのを見た。
それはよくあることだったし、笑うにはあまりにもなにげないことだった。
これが血だっら、と思うが、なにせ透明くんたちがその後どこへいったのか、誰もわからんわい。

アメックスストーリー

否世垣

あんなに仲のよかったアメタとアメリはすぐに番ってアメカになった。アメカはアメヨにさそわれアメルになってしまった。
アメサ、アメホ、アメナは、かつてアメヒコ、アメヤ、アメハルだったことがあり
つぎにはきっとアメノぐらいにはなる予定である。
こうして、きのうの透明くんたちは昨日の透明くんではなく、すっかりあたらしいアメ一族になってうきうきするわけだった。もっとも、うきうきしないアメっこもいるし、うきうきしすぎてどうにもこうにもおさまらないアメっこたちもいる。
どちらもつぎにはおなじひとつのアメっこになってしまえば、あららしい個性が形成されるのだろう。

よく笑う月の話

否世垣

よく笑う月とほとんど笑わない月が一月ごとに交代して夜の空を照らしていた。
よく笑う月がほんとうによく笑う月には、ほとんど笑わない月がほとんど嫉妬にくるわんばかりによく笑う月を恨めしそうに眺めるのだった。その様子があまりにおかしいために、よく笑う月はさらによく笑う月として夜空に笑いを響かせていた

チョコッ子の話

否世垣

チョコがだいすきなチヨコは、キスのだいすきなキススケと恋におちた。会うときにはかならずきっちりと入念にメイクに時間をとったが、くちびるだけはポッケであたためておいたチョコを指で塗るのが習わしだった。そうして、チョコカラーの唇は、大好きなキススケの肉感的な唇が重なって、チョコ紅ごとぬぐい去られるのだ。
キススケの舌はいつしか、ココアカラーに変ぼうして、いつもおいしそうな艶を保っている。チヨコの唇もいつしかココアカラーに変ぼうしていたが、キススケの強力な吸飲力のおかげで、そこに紫が加わってどうしようもないほど変な色になっていた。ははは、笑いが漏れた。いってみれば、甘栗色というのか。それではチョコ好きのチヨコとしては不満なわけで、キススケにいった。「ねえ、せめて、キャラメル色にしてくんない?」
じゃあ、何色をたせばいいんだ?
さあ・・・といって、彼は次に色の研究をはじめたそうだ。

コンペイトオの話

否世垣

あるとき、子供があんまりにも本物の★を欲しがったので、よし、じゃあ、今度な、とついついぞんざいにいってしまった。
それから、ことあるごとに★、★とうるさくなった。
星形のコンペイトオでごまかそうとしたら、それはコンペイトオであって、★ではないよ、といわれてカチンときた。カチンときたときに、ちいさな★が出た。これはいけるぞ、と思ったので、子供にもっとカチンとくることをしろといった。子供はあまりにも素直すぎて、それから狂ったようにカチンとくることばかりをし始めた。
最初のうちは、子供は子供だったが、そのうち、髪の毛を焼かれたり、耳をかじられたりしたので、カチンどころか、ガツンとやってやった。すると、こその表紙に、こぶし大の★が出たので、子供に、よし、ごらん、ほんものの★だよといった。
なのに、子供は眠ったままだった。一週間たってもまだ眠ったままだった。

物騒な話

否世垣

最近近所では空き巣が多発していると回覧板が回ってきた。まさか、うちだけはというのが人の考えようだ。すると、寝ようとしたら窓から風の一行が押しいろうとしたので、やめてよ、といった。いってもはいってこようとするので、これ以上やると、警察を呼ぶとオレはきりりといった。すると、風は急におとなしくなって、やめるよ、やめる、もうしないから、警察だけはかんべんしてくれ、とべそをかく。素直に最初から、玄関から順を踏んで訪ねるべきではないのか、というと、寝ているのをおこしたくなかったという。でも、同じことだというと、いやちがう、全然違うと言い出して、最後は逆切れされた。
 おまけに、風は勢いをつけて、オレをぶんなぐって、オレは壁に打ちつけられた。そのあとの記憶が消えていたが、目をさましたのは病院だった。もうあと少し発見がおくれていたら、危なかったですよ、と医師にいわれて、それはどうもといった。あなたをつれてきてくれたのは、たしか風の団体で、名前も住所もいわずにかえっていきましたよ。オレはそれから、窓をあけて寝なくなった。それ以来近所の泥棒騒ぎはぴたっとなくなった。

はしの話

否世垣

 職場で、昼になって、弁当の時間がきたので、食べようとしたら箸がなかった。忘れちゃったんだな。で、箸をさがしたがなかった。スプーンもフォークもなかった。ボールペンがあったが、インクのあじをなにも御飯時にあじわいたくはないなとおもったので、やめた。仕方がないから、手を洗ってきて、ひとさし指と中指をテレビのアンテナのように、はしに見えるまで適当にひっぱってみた。うまくいったので、ほっとしたら、周りの人がそれを見ていて、なぜかとても恥ずかしい思いがしてうつむいていた。
 しばらくするとみんながおのおの自分の指をひっぱり始めた。とりあえずオレはあわてて弁当をかけ込んだが、はしが指だということを忘れて、食後一目散に流しで熱湯消毒をした。
 そのとき、悲鳴のスイッチはOFFになっていて、だれもきいてはいなかったろうが、おそらくは、どこかメモの片隅にでも記録は残されたと思う。指は赤く、ランチュウのようにぷくっと晴れ上がって水膨れができた。それでも、冷静さだけは失っていなかったので、それをトンカチでがんがんうって、かたくしておいた。そしてなんとか肌の色にとペンキを塗り、それをもとの指のサイズで切断した。以後、その箸を使うことになった。

勝負した話

否世垣

とにかく、勝負にはまけたくなかった。ルールはいたって簡単だった。だれでもいいからとにかく手当たりしだい電話をして、向こうが受話器をとって通じた瞬間に、受話器からするりと抜けてとびだす。それで何人の受話器をすり抜けられるか、というものだ。
あるとき、その相手が携帯電話で、その穴また穴をすり抜けるにはもうひと絞り、する必要があったから、首のぶんだけなんとか出したがむりだとわかったから、戻ろうとした。そのとき、電波が届かないところにはいって、オレはその状態でロックされてしまった。もちろん、持ち主は知る由もなかった。なぜならオレは声、すなわち音声になっていたからだ。
オレは苦しくて気を失いかけていたが、またどこかで電波が届き始めて、オレは、そう胎児のようにするりとぬけることができた。こんどはひらひらした気分になった。電波になって空中にいたのだ。もはや、受話器にもどってすり抜けを続けることはできないのか? 
それは単純なことだった。持ち主が、携帯じゃない電話にかけてくれればいいはずだった。しかし、その持ち主の相手は天使なのだった。だから、電話は電話としての機能を果たす必要がなかった。オレは複雑だった。
天使は電波よりももっと単純な波動を常備していた。ときには電気みたいにピリピリしたし、ときにはうっとりする程ロマンティックだった。けれども、一度その世界にいってしまえば、二度とは戻ることができなかった。月はおもしろそうだといったが、太陽はやめておけという。星に聞いたら、それは自分できめることだといわれた。そのとおりだと思った。

ころもになった話

否世垣

あるとき、てんぷらをあげている鍋につるりとすべおちた。耳がつんとしたが、興奮で我を忘れるほどだった。最後はいままでにないほどからりとあがった。なんとか這い上がりたかったが、運良く掬われた。
ころもはちょうどよく、なかはあたたかかった。しかし、だれも口にはしなかった。おそらく、形がうまそうではなかったからだろう。オレはしめたと思った、これで寒さから解放されると。
けれどもだれも箸をつけなかった。あたたかさも一時的なもので、どんどんと冷えていった。冷静になった。
油をどこでおとせばいいか、だ。

天気になめられた話

否世垣

天気予報は晴れだったが、天気が気まぐれをおこしてアメになった。ひとびとは怒ったが、天気はけらけら笑っていた。するとアメはからりとあがった。それを雲と風が見ていた。顔を見合わせて何度も笑った。覚えておこう。問題は、天気予報の適当さにあるのか、あるいは、それを真に受けた大衆の愚かさにあるのかをめぐって審議をしようと、誰かが言ったのが聞こえた。もちろん、僕は支持をした。しかし、だれもそれを取り合ってくれないので、悲しくなっているとき、アメがざっと降った。気持ちの良い通り雨だった。アメにありがとうというと、アメは、べつに、と素っ気なくいった。そんなもんかと思ったが、気がつけば、気持ちのよい青空が広がっていた。すると、すべてが問題ないように思えた。誰かがそうだといったのを耳にしたが、それが誰の声だかいっこうにわからなかった。

シマウマの

否世垣

シマウマがやってきて、人間みたいにことばをしゃべった。かなりおしゃべりだった。仕事がたいへんだから、あとにしてくれる?というと、ふん、といってシマウマはすねた。そのあと部屋をクルクル歩き回った。途中立ち止まって、ブラインドから外を眺めてため息をついていた。仕事が終わる頃、シマウマは、格子柄になっていた。ぼくは目を細めた。

ベジタリアンの蚊の話

否世垣

あるとき、蚊が人間なみのサイズにまで大きくなった。驚いて声もでなかった。幸い顔は思ったより優しそうだった。ストローで、トマトジュースを飲んでいたのでほっとした。飛んできたふつうの蚊はそれをみて、うらやましそうにこちらをみていた。その隙をみてふつうの蚊を両手でバチンと挟んで殺した。すると血でなくおもわず涙が滲んできた。大きくなった蚊はちらりとみたが、その後、最後の最後まで、ジュースをすすっているだけでなにもいわなかった。血の気が引いた。

雷なんかこわくないよの話

否世垣

雷がゴロゴロ鳴り始めたので、みんなはきゃぁといった。オレは雷なんぞ恐くないといった。雷は不機嫌そうにして、こなまいきな、という態度をとった。そのついでに発電塔に一撃をみまった。どうだといわんばかりだった。
オレはこわくなったふりをして、両手で耳を覆った。そしてぶるぶると震えてみせた。雷は御満悦だった。そうだろう、そうだろうといわんばかりだった。その後しらぬまに雷は姿を消した。耳から手をはなすと雷の子供がとびだして、こわいよぉといったので、恐くないよ、といってあげた。雷のこどもは喜んでダンス始めた。パパはもっと上手だよ、といって上機嫌だった。

一年前の影に出くわした話

否世垣

良く腫れた日曜日、一年まえの影と街角でであったが、気付かなかった。影は、やあ、という。???、オレだよという。さあだれかしらん? 君だよ、君だったオレだよという。顔がないよというと、影はむりにでも顔をつくらんとばかりの勢いで威圧してきた。いいよ、無理しなくても、とオレはいったが、そんなに気が入らなかった。
影は黙り込んで、なあ、もうだめかい? ときいてきた。何が、とオレがいうと、もう一度、君につけないか、というようなニュアンスのことをもじもじといっているようだった。それは無理だとはっきりというと、影は泣き出してしまった。オレははずかしくなったので、ちょっと場所を変えて話そうと提案した。
だって・・・と影はいいかけたが、そこが交差点だったから、じゃあ、ちょっと脇のほうへ移動して話そうといった。けれども話は平行線だった。
一年まえの影はあたらしい影の後ろをもうしわけなさそうについてきた。いまの影はまったくクールで言葉をほとんど話さなかった。日陰になると、一年前の影から一年前のオレが現れていった。やっぱり、よしたほうがいいよ、と。そうしてみるみるうちに縮小していくように消えた。オレは言葉がなかった。