浪花ポエジー

オオチャカを離れてはや四分の一世紀ですわ。しょうみの話、こっちゃでのくらしがながあなってもうて、すっかり江戸っ子になっちゃいましてねえ。って、なに、ホンマかいな? おとぼけのあんさんはどこから見てもオオチャカ人やん。なるほど、クールに構えとるけど、オオボケやもんなあ。いちびりやもんなあ。性根はどだいナニワ気風抜け切らぬ身、つまりその、あけすけで、あつかましく、身勝手で、単純そのもの・・・・おいおい、わがでわがを卑下するどアホは出世できんでえ君。ようするにでんな、個性的なわけでございまする。オリジナリチー、クリエイチブなんや。ものはいいようでおますなあ。

こう見えても義理と人情人並み以上に篤きわが性質の、ことばと絡んだナニワ事情は、かくもかしましい。よって煽動的。その、なんですな、これはひとつのレトリックいうもんですがな、はいはい。言葉の手品だんがな。はいはい。いうなれば織田作之助から、野坂昭如、町田康なる先人のあとを追いし、その文体、ことばのニュアンスはいたって、人間味にあふれ、その反面妙に胡散臭いような、いうなりゃ芝居がかったお調子もの風はなっから否めず。でもねえ、そのなんですなあ、これこそは出汁のきいた旨味があって、わし、こないな感じが性にあっとるねんなあ、好きやねんなあ。てなもので、ようは、ものを綴るにも生きたことばをつこうてやらんと、文そのものが死んでしまうっちゅうことだんねん。そないなこと思いながら、じつにだらだら、時に勢いあまってドタドタバタバタと流れ押して、しおらしゅうに目配せするかと思いきや、じつは、単にそのリズムを楽しんでるだけの確信犯、ってなことになってしまうんやねえ、これが。

どうぞ、これはひとつの洒落やおもうてください。でも、ほんとうのところを酌んでくれれば嬉しおま。ちょっとばかしインテリジェンスに欠けるからってやね、どうぞ小馬鹿になさらず、なあに、これぞ哀歌、溝口健二の名作『浪花エレジー』を下敷きにしとりまして。いや、別にとってつけただけの、まあ、そこんとこはナニワ気質の詩情を、丹精こめて歌い上げとります。いやいや、もう、これ以上はくどいってなもんや。よっしゃ、何はともあれ、ここに、ナニワポエジー、ひとつよろしくたのみますわ。

浪花ポエジー

いまどきその、なんですなぁ
詩人がもてるええ時代になりましてぇ
えー、テレビひねればナニワのことばぁ
ねん・やん・とん
戯れ音が氾濫それいかに?
であるからして、いみじくも啄木なんぞは受けしませんがな
めめしいことばを吐く時代は終わったんやねぇ
嘘でもあんた、なめられたらあかん
そらナメ猫のたたりじじゃあ・・・ってなことありません
ええ、けっしてね
いきがる若さもたまには要りますやん
さよう、ちったあ虚勢も大切やさかい
詩ぐらいぎっちょで書いてみいいうねん
な、よう聞きや、そこのにいちゃんねぇちゃん
詩いうんは、書くまでが命
どない生きとるかが勝負ちがいまっか
とわしゃ叫ぶ
するとなんやしらん目も真っ赤やねえ
赤チンいれたらあかんでしかし
そんなんいれるやつおらんがな、はははのは
そやから、カッコええコトバなんかいらんねんし
そやそや粗野な戯れ言でもええねんええねん永年の業やわいさ
くみとっておくれなまんし
察知しておくんなはれ
頭で生きるも、身体で生きるも
カッコええのに理屈はいらんいらんのええ香りぷぅんと
この詩情をば、至上のランゲージをね
ねえ、ねえ、わかっておくれやすぅ
そらあ、だれかて分かってほしいやんか
おのが私情を詩情にたくし
ああ、カミサマ、と桑原一男風にでも呼び込んでからに
ちょっとくずしても、わかるひとにゃあわかるのりでいこ
それが詩人ちゅうやっちゃで、君ィ
なのに、この世は贋ものばっか
とほほのほ
どないなっとんねん
うそとはったり、たたりおそれずくんずほぐれずのありさま
ああああ、ううううとココロ痛むこの純粋ちゃんはやねえ
それはそれは哀しゅうて、でるんは愚痴かため息か
みればフロントガラスが曇っておるがな
ほなら、あたいおひとつ考えまっさ
この先身の丈顧みて
徒歩にて行脚と行きまひょかってなことで
向かう先は知らねども、口笛吹いてケセラセラセラ
あんたにささげるバラードないよ
そんなこんなの臭いネタちらつかせ
やっておるのはどこのどあほうやろかいな?
詩人は気負わず、飾らず、そのままがよろし
ナニワに生まれた因果やから
ええい、どないなってもかましまへんわ
迷わずすすんで生きる生きざま
ざまあみさらせ、えへへのへえ
示して煽って、どうどう生きる
ナニワともあれ、浪花ポエジー
ここにありけり、けり一発
おお痛たあ。
なにを回想しとんねん

育ちは粗雑、泉州貝塚の
土を掘っても貝など出まいな
ユニチカバレーで知れたぐらいでなあんも誇れんその町を
思い出すのは夢の中のおぼろ模様
あの頃は、不器用に不器用重ねた玉ねぎ小僧
たんぼで野球にサッカーの精をだしとったなあ
けっこうやんちゃで活発身体の傷は勲章で
はみちん恥じずに汗だくどろだらけの
小水ちびって冷や汗かいて
喧嘩は弱いが口は達者
ああ、なんたるスブニ-ルやろ
あのころ自慢はなあんもなかった
ただひとつあだなつけるんだけは上手かったなぁ
それゆえオツム誇るには、もう少し色つけんとならんわな

そんでも中学からわたくし私立のぼっちゃん生活
聞こえはええが、規則の厳しい宗教学校でしてん
ゆえに般若心経空でいえますねんで
教育馬鹿の両親に強制入れられたも同前の
オヤジは未来を勝手に描くし
母親帚もって追い掛けてきて
いかんと承知せんよ
で泣く泣く受けた受験番号はたしか128
頭刈り上げあおあおとしたあのころは
ああなさけなや男子校生活で奥手に拍車
ちょっと厭世的なまなざし覚えたんは必然で
教師や仲間の目はいかにも冷たかったなあ
ああなつかしの上六で記憶に残るは
おじんルンペンからかったんとインベーダーゲームの興奮
そいでもって祝猛牛優勝ぐらい
あとなあんもないねんなあ

なにをここらで回想しとんねんな、君ィ
でもな、かんがえりゃ変わったのは歳だけやんか
体重、身長中学時のまんまできたし
あたまのなかにがらくたつまり
つまり夢と希望が続いてますわ
いまや同級生なぞまわりにおらんし
わしゃ孤高ひとりがんばってんでぇ
うだつはあがらんかて
自由きままにがんばってんでぇ

だもんで中学にげだし移りいどんだ高校の
大学と地続きではいからさん多し
ちょっと背伸びもしたけども
まわりはぼんぼん毛並みが違う
なんやかんやで平々凡々の日々
ひねもすのたりのたりかな
でも、なぜか浮いて浮いてわしゃ浮漂のごとし
ってなココロの日々は
個を磨くにはよかった
覚えた酒タバコの味は苦かったし、
不良などはめっそうもない世界で
生真面目に無遅刻無欠勤やったなあ

その時知った文学や音楽で
世界はバラ色に変わり、
個の世界ははちきれて大きく羽ばたいて
いまに来ると確信したっけ
ワシの時代がやってくる
オレの時代がきよねん
いまにみとき、みんあぁ
とあのころの自信はどこから沸いたか?
そらわからんが
今をもってそれは現在進行形

なにをここらで回想しとんねんな、君ィ
でもな、かんがえりゃ変わったのは歳だけやんか
体重、身長中学時のまんまできたし
あたまのなかにがらくたつまり
つまり夢と希望が続いてますわ
いまや同級生なぞまわりにおらんし
わしゃ孤高ひとりがんばってんでぇ
うだつはあがらんかて
自由きままにがんばってんでぇ
さらば死人の国の住人たち

わしゃいたってくそ真面目
いたって純粋に通った社会生活三年と三ケ月
やったらできるオレ、唯一の記録
そのオレぶち切れたんは、そやつ性根くさっちまったから
なんと小さなケツの穴
周りのしらっとした感じ
あのドヨンとした空気
はぐれもんのオレでもできるあいさつひとつできんもんなぁ
ああもう耐えれんかったわ
緑の血ながれた人間達のことを
忘れへんけど忘れたい

我にやっさん憑移してのたまう
お前らしかしいっぺん死んでこいや!
自分、ほんまええのんか?
そないな尊大な態度にでてええのん?
そう繰り返してさけんだワイの口
わなわなふるえて凍り付いてもた
氷点にたどりついたココロ
傷をおさめて、しずかに羽を用意したオレ
血は滴ったが晴れて自由

握る拳はグ-を収めたんは
じつはチョキでした
いわば切ったろか、思いましてんけど
けっきょくすぱっと関係を切ったいうわけやね
そのときはそら必死やったけど
今思って正解
そのままやと殺られるし
ずたぼろにされる感じあったから
わなに対するわななきに負けるわけいかんがな

やくざまがいのコンサルとひと悶着
突然やってきたあんたに何がわかるんな?
いいや、ちゃうわな
あいつが元凶
おかしなおかしら
ころころ変わるポリシーについてけるんは生きた屍ばかり
オレ、根は争い嫌いやねん
その、どうも、ココロネの貧しいやつら
観てたらはらたってしゃあない
感覚の乏しいやつら皆殺しやど
そりゃヒトに生まれて無碍にされたら
だれかて怒るガーナのチョコレート
その、気分に甘さはなかった
この手が銃を握る人間やなかったのは運がよかった思とってえや
あんたら

これほどまでにホットテンパー温度あがるんは珍しい
テンパーの気づかいが場を救ったろうに
人を憎んだことのないこのオレが
憎しい思うこともあるんやもんなあ、
ほないにオレのココロ土足でふみにじりよってからに
許せんかったけど
でも、オレの復讐天使のそれに似てすこぶる優しいよ
培ったインテリジェンスじゃましよんねんわ
発つ鳥あとをニゴシアシオン
交渉事は高尚なんやねえ

実のところいたって冷静沈着のわが頭
あいつ結局貧乏神に憑かれたどあほうで
あわれにて、憐憫いたすが
でも、最後はさすがに呆れはて
はてなマークのオンパレード
可愛げもなんにもありゃしないので
神、すなわち商売のゴッドたちも一斉に手を引くっちゅうねん
勝手にさらせ
首吊って死にさらせ

ええきみや、ええきみや
観て見ぬふりは同罪
ほんま、あんたら人間ちゃうやんか
生きたかったら、血みせえや
それがいやなら死んでくれ、消えてくれ
そこのボーイにそこのおっさんら
みんな同罪
ああかいああかい真っ赤な血
それはトマトジュースのように薄い
思い出しな人間を

こう見えてもオレ、ジェントルマン
ポジティブ思考の建設大臣やから
あんたらにも五分の魂を思う
おれのこころに情の雨が降りしきり
やがてピースが宿る
明日は美しい花々に囲まれて生きたいもん
だからひとり身を退くおとこのこ
人間引く時は引く
それが美学いうものやん
みなわかっておるよな、その
あばよ
死人の国の住人たち
さらば
死人の国の住人たち

さらばザリガニ人生よ

あんたがやね
それ、おもんない人生思うんなら
いっぺんわしとこおいでぇや
癒したるがな
励ましたんがな
そこにも退屈したらって
そら知らんがな
勝手にどうぞう西郷さん

教祖なんかはくそやんか
みんな対等にやりたいわ
先の事はわからんけども
なるようになっていくまでやん
あんまりむづかしいこといいないな君
素直にその日その日を生きような
前へ前へ
さらばザリガニ人生よ

社会にもまれてそれなりに
義理人情おぼえたけれど
やっぱりその、いっちゃん難しいんは人間関係
どの顔信じてええんかは
経験と勘が頼りいうわけやわ
そらそのなんや
騙されたり
裏切られたり
まあ、どろどろ関係あるにはあるが
わしはけっこう恵みを受けて
成長健やかに朗らかに
やらしてもうとるこの恩恵にて

おおきにどうも
ネイバーはん
そやからわしまた
敵憎まず隣人愛に目覚めての
もちつもたれつ生きていくわさ
前へ前へ
さらばザリガニ人生よ

珍獣ブー

フツー、ブーといわれりゃココロ引くが
やつはココロ惹かれた変わり種
オレとすりゃあむろん悪気などなく
ざっくばらんにまんま呼んだまで
でも飽きんのかいなブー、その遊び
ちいちゃい子が人形ずっと手放さんみたいな
あの感じやで
そのココロネ純粋に後生大事にしてからにな
一粒種にてさみしかろうが
そやつに神が与えた嗅覚まこともってすばらしいやんか
ブーは世を嗅ぐ天才
芳しきかなその嗅覚はたいしたもんや思う
ささいなことも嗅ぎ付けるのはブーならでわ
ちょっとおばはん的なノリをなんととるかが分かれ目か

変わり者が見つけた変わり者
こらまた同じように変わり者で、なぜか同じ星まわり
慎重、だが辛抱強く、がんばりやさん
慈悲深くて、実は古風なその一面
いつまでも同じやねえ
わかっとるわかっとる
あんたのしそうなことぐらい
胸にかかえた玉手箱
びよんと開く夢みてすやすやと
霧のなかのブー
あんたの好きなはっぴーえんど空で口ずさんどるでしかし

ブー、ブー
オレはそんなブーをふと考えると
なんだか、とっても照れくさいねんなあ
が、まんざら嫌でもない自分を笑う
ずっと昔から見知っているわけのわからん置き物のように
当たり前のようにあるその置き物のごとく
ねえ、おかあちゃん
あれ、なんのためにあるん?
あれか、あれなあ
むかあしおとうちゃんがどこぞでもろてきたんやけど
そのまま捨てられへんねんなあ、であんたいる?
えっ、そないこと急にいわれてもなあ・・・・と頭を掻く
でも、オレにすれば
そいつはいまや身内のようなもんやしなあ
たとえばほくろを除去した堀内はアホなことしよるで
そう、あのアホボン監督の顔は憎めんやろ
ミスター31の頭かてよおみりゃかわいいもんな
人それぞれそのままでええやん

そんなこんなブー
ありのままでアあるがゆえのブー
オレにすりゃなんだかんだ
けっこう愛おしいやつ
実はようできたやつで
絵を描かせると上手やし、写真の腕もなかなかやし
なんたってがんばり屋なとこはほめてあげましょうか
でも、ちょっとひねくれて
ちょっと濃すぎ
ちょっと自意識過剰で
ちょっとうるさすぎる
といいながらそんなブーをオレはかっておるんだな
かっておりますねんぞ
それは頭の中で
ブーはまた聞き耳ならぬ
効き鼻ぶいぶいいうてるいうてる、ほら
ブーよ
あんたいうんはかぎりなくブーやねえ
だってあんたはこれまで簡単に見つけてしまうんやから

紀州の三四郎の唄

紀州の荒波
それは遺伝子の中に組みこまれとったと悟ったのは
物心着いて、ひとと違う境遇のワレを観た時
気狂いのおかんかかえて、君
おまけにおとんは雲隠れ
おばあはんも強度のアルツでてんやわんや
そらどうみてもひねくれる星回り
そらたいへんやなあ
でもさ、あんたはよう育った
エッジにて漂流する野良犬みたいに生き延びたらよろし
案じょうやりいや

とはいえ、アンタの台詞は理屈まみれ
ことばが武装の道具になっとる
敵はあんた自身に思う
「何が狂ってるんか、その定義そのものがわからしませんし」
などとのたまう身
よくぞ、成長されました。
が、その、時には理屈を超えていかなあかん
もういっかいジュネやらランボーの詩繙いてみなはれや
生きる乾きを癒しながら

そら、この世はわからんことが多すぎるんは
みんな同じですがな
でもね、それでもやね
この世で生きるには意味を見い出すフリをせねばならん
そうしてたどりついた場がこれかい?
引きこもりを自嘲気味に自称するあんた
で、ロピュさんやっぱりわからないっす、
そういって、うすら笑うあんたの孤独がささる
わかるよ。わかる、がフツーにいこや
で、ロピュさんフツーってなんですか?

まあ、よろしわ、人生はフランク永井
とはいえ、味のないブランクは短くして
さあ、あんたの目標に向かってやね・・・

ロピュさん、それがないんですよ
まあ、探しているんでしょうけど
まあ、ええわ

ロピュさん、それもわかってるんですけど
まあ、いまはコレなんですよね
まあ、ええわ
あんじょうやりぃな

哀れな男の唄

良くも悪くもあんたは絶対を通しはった
立派だったんは全盛期のみ
いわば亭主関白、これぞ父親ってな感じの
横暴顧みず一度もへりくだることなくきたもんなあ
その結果これやから世話ないんちゃうか
オレとしてみればじつに哀れな男に思え
恩はあるが尊敬の念など生涯いだけんかったわ
すれ違いの関係その無常を想うんは切ないこった

みれば矍鑠とはいえぬ日々老いに蝕まれて
かのミスターなら世がこぞって心配してくれるやろ
あれこそは人徳の差でんなあ
こっちゃは生きとおるだけの、いわば生きた屍で
テレビだけが生き甲斐となった老年の侘びしさ
色のおかしな画面にかじりついて
将棋だけに死んだ眼を見開いておるあの侘びしさ
絵にもならぬある意味、これ浮き世か?

いま涙もろいのは歳のせいで
何が楽しいんかようわからん人生の主は
人の情に触れんがゆえに哀れな老後をおくってなさるが
ああ昔の勢い見る影もない
これが因果と呼ばずして何なのか?
人生にツバをはいたんはあんたの業
人目ばかりを気にしながら、
もっとも大切なものを顧みなかったつけは回る
それ払うんにも追いつけんありさま
反面教師は実に痛痒いよねえ

自分がないいうことを無自覚でいたらこうなる
そうココロに戒めて我が身に返すが
世の縮図としては他にもこんなんあるんやろか?
なるようになったとはよく思うが
これがわが親のなれのはてかいなと情けない
たしかに高度成長真面目に働いたはいいが、
人というものをまったく観ていなかったのが致命的やった
あんたの時代はがむしゃらで没人間
気が着けば無気力な老後になるんはみえとったわいな

こりゃどうみてもSF風に思えど
家族の人間さえも理解しえんかったのは
どうころんでも度量の限界
結局なんのために生きるんか
考えずには生きられんいうことやねえ
歳を重ねても暴れに暴れて
餓鬼の域がいま痛くのしかかってる
おおよそヒトとしての感情欠如にて
どなったり、わめいたりはもはや人道ちゃう
血のかよった人間からもそっぽ向かれてもしゃあないで
死んだところでだれにも涙流されず
灰になる運命、そらきっついなあ
それでも餓鬼は墓のことが心配とのたまいつづける
そないな男の背を観てきた息子
げに憐れみを唄ういま
その轍を踏むまいと決心したところの物語
あれは絶対やってはいかんことやと唇かみしめ
それはまちがっとらんやろ、と天を仰ぐ

それでも、人間情はなくならん
あんた、どこでボタンかけ違えたんか
自問したことありまっか?
改悛に遅いということはあらへんで
反省を知らぬならサル以下
この傲慢にて晩年の凋落
カネがすべての人生も、カネが失せればほらみたことか
なにひとつ残らないのは自明の理
不自由な身体をひきずって
はてこの先何を想いまするの?

自分のこと世話する側近妻にも悪態ついて
みるも醜いそしりで口角泡飛ばしとはこれいかに?
それを直さな三途の川をこえねばならんぞ
神はどのようにこれに慈悲を分配なさるんか
はたからみてもやんなりまっさ
あんたが望むことなにひとつできなんだこの息子を嘆くもわかるが
それでもそこを唯一の希望にしとるんやて

涙もでんねえ
そういうひとと繋がっているのは天命
オレとて思いはたえずある
もういちど純粋なる人間をとりもどしいや
別になにもいらんから
が、それこそはこの世の至高なり
誰もが所有するものではないのだよ
ときにはなんとかしたりたいとも思うのが人情で
そうして日々を生きてんねんし
わかるか、おとうちゃん、あんたのこと
だから、あんた、気がついたらそれでええねん許したろ
そのときすべて水にながしたろと思うんやで
せやけどこれが難しいねんなあ
あとはカウントダウン、そない猶予はない
オレはあんたがおらなんだら世におらんわけやし
そうして、この道生きてることの因果
人に迷惑かけることなく
なんとかかんとか生きれておるし
恨みつらみはもはやなし
あるのはこの現実のみ

哀れな男を思うにつけ
もののあわれを思いし我
哀れな輪廻を断ち切らんとす
それが素直なココロの内よ

シマリスちゃんの思い出

あれは無職の時期
たまたまいった職業訓練校でのこと
むかしシマリスを飼っていたという君が
ある日逃げ出したそのシマリスのことをオレに話してくれたことがあった
それがオレにとっての君やったこと
オレはあの暑っつい夏の日に思い知ったわけやった

わすれもせんなあ
あの教室でココロを許せたんは君だけやった
オレは夏にグッドバイが多い人間
それがまさか君と訪れると思わなんだ
あれ、最後の日、ぎりぎりまで遊んでたやろ
名残りおしいてオレついに君をはなせんようなってもうた
でも、君には帰るとこがある
午前の渋谷の街にオレひとり残されてやで
ハイヤーに曵かれそうになってまで君を追ったんやなあ

あの楽しかったほんの三ケ月だけ出会いのことや
あれはいまでも残ってるええ思い出のひとつやねん
映画が好きでアニメが好きで
音楽が好きで洋服が好きやった君
ヘンリー・ダーガーや永島慎二のこと
君がおせてくれたやん
ほんでオレの絵や音楽をおせたら気にいってくれたなあ
毎日あえる学校ってええなあと思ったわ
まるで十代のような気分で
今日は昼どこで食う?
それが愉しみで
帰りは帰りで時間ある?って感じでオレははずんどったわ
なれんカラオケでオレは君のために
「風をあつめて」を唄ったったっけ。
で、いつだったか家族の話をしたら泣き出しそうになったやろ
なんかわかる気がして胸がいとうなった
オレはその次の日左手で詩を書いたやんか?
もっとるかなあ、あれ
あれはラブレターのつもりやった
いまでも、ずっと君のこと
頭のすみから離れへんのはなんでかなぁ?

それから映画館にいくといつも会わへんかなぁと思って
しばらくどきどきしてたわ
きっとどっかで行き違いになってんねんやろなあ
映画の仕事したかったいうとったな
それにしてもあんたは謎を抱えておったが
不思議に、その謎がオレの謎とリンクしておったのは不思議やった
オレのかわいいシマリスを奪ったんがあいつやとはなあ
そら不思議やった
ゆえにオレは強引になれんかった

で、君の苦しみをオレは知ったから
まるで水のなかに金魚もどすみたいにして
君をそいいつのもとへ返したあの日
あの日以来きみのいる新宿までが
ドキドキシティーになりよってからに
ほんま君のおでこにサヨナラのくちびるをふっと載せて
きびすかえしたオレは一回も振り向かんかったやろ
まるでオルフェウスの心境
ちょっとオレはおっとこまえやろと思ってた
振り返ったら永遠の別れになると思っておったねんなあ

そんな季節がまたやってくるなあ
ゴールデンウイークあけのあの陽射しがまぶしいころの
あああれを爽やかいうんやね
切ないといえばそれまでやけど
ほらなんかココロのどっか鳴ってるな
あの季節がね