ものには全て命があり、声がある
のんきに見えてもそれはそれ
ろんりをかざす前に
ぐだぐだいう前に、ただきき耳をそばだてるがよし
日頃いろいろ世話になっているたくさんものモノたちについて、考えることの意義は大きい。ものものしさにばかり気をとられているより、モノたちの生の声を聞いてみることの、なんと素晴しきこと。といっても、聴きとるにはそれなりの工程をふまねばならない。さても、まずは耳器を内外ともぴかぴかに磨き上げ、悪戯っ子渦巻き管を再起動チェック、目の瞳孔ルクスセンサーのヴァージョンを最新版にアップし、鼻孔欄には芳香ならびに方向を嗅ぎとるためのハローマエッセンスを数滴たらしておくこと。こうした努力なくしては、なしえない境地なのだ。それを見事にやってのける独白氏にはエールを送ろう。
さらに、モノたちは、声なき声で歌い、のたうちまわり、笑いころげ、泣きあるいは憂いに身をやつすだろう。かたわらにいる君が、そうした動向に敏感になるとき、モノたちのモノローグがおのずと聞こえ始めるだろう。もはや、何だってかまいはしない。それがいかにも狂気じみていようとも、子供じみていていようとも、あるいは詩の直感に導かれていようとも、受信したのは君自身であり、君の言葉でもって何人にはばかることなく自在に翻訳し伝えるがいい。
心あるモノたちは、感激のざわめきに静かにうち奮えるだろう、すなわち波動というやつだ。これをもってして、君はあらゆる存在の瞬間に立ち合うものとして、モノたちとともにここに祝福されねばならない。言葉を掲げる真の行為者には、そうした特権が用意されているはずだ。
注)モノの性別は変わることが多々ありますのでご了解ください
著:◆物野独白/monono doppaku
肩書き・モノゲンユニット社委嘱翻訳家
モノログ10選
- マスク このところもうてんてこまいですわ。
- 靴 その調子で、今度はあんた磨いたら?
- 便器 いまさら何を照れてるの?
- カレンダー さあね、先のことは知らないよ
- ティーカップ あたしもずいぶん汚れたものね
- 雑巾 もっときつうや、ええい、かしてみぃ!
- ブレーカー これ以上落としたら、切れるぞ
- ラジオ レイディオって呼んでくれ
- 体温計 だるいの、ここんとこ。今日は休ませて
- 塵取り うっわぁ、それぐらいで呼ぶ?
- セロハンテープ わかってると思うけど、脱毛は無理よ
- ドライバー プラスばかりがなぜモテる?
- 乾電池 悪かったわね、寸胴で!
- 鉛筆 どうせ僕はHですぅ