ちょっとちょっと 一

水滴競馬

各馬一斉にスタート!
というのはこちらの一方的な願望でしょうか。
実に勝手気ままにスタートするのが
この“水滴競馬”というものの醍醐味であります。

ガラス窓に、いつどこからともなくやってきて
我も我もと同志たちがひしめき合ってゲートイン。
さあ、今まさに繰り広げられる自然発生的に誕生した
水滴サラブレッドたちが詩情を交えるオートマティックレース。
準備が整いました。
いざスタート。

詩のように引かれた線が時に見せるユーモラスな一面。
赤ん坊のヨチヨチ歩きか、はたまた酔っ払いの千鳥足か?
色々形容はございましょう!
ひとまず、レースに注目しましょう。
あっちへ行ったり、こっちへ行ったり。
人呼んで「なんでそんなに暴れるの杯」がスタートしました。

各馬すでに一斉にスタートしております。
まずは上から鷹のように急降下を見せるのは
1枠荒馬ジャンリュックサック。
先行馬の名の下に、その切れ味、流石というほかありません。
スピードがちょっと違いすぎます。
次はちょっと太り気味、2枠の暴れ馬、ペーターカン。
太め残りが影響か。
ゆっくりと二番手につけています。
おっとこれはご愛嬌か、勢いを溜めてでもいるのでしょうか。
体格の割に優雅な疾走ぶり。
その次に、今回は特別参加の3枠は名馬ベルトリンチ。
安定した力を発揮して虎視眈々と先頭を狙っております。
おっと、ここで出てきたのが4枠一番人気の本命
ヴィムヴェンヴェン、一気にまくったか。
勢いが違いますねえ。
さすがに実績が違います。
そこへ度重なる事故にもめげず復活を遂げた5枠、
若手のホープ、レオススラックスが彗星の如く割り込んでまりました!
もったまま快走鮮やか。
なんとも大胆な走りっぷりですねえ。
若者らしい走りっぷりに好感を持てます。
さて、実力伯仲、手に汗握る
素晴らしいレースになってまいりました。
おっと、ここでヴィムヴェンヴェン、調子が変です。
ひと頃の勢いがありません、どうしたんでしょうか?
ちょっと心配です。

でもレースは佳境に入りました。
いよいよ混沌としてまいりました。
何が何だかわからなくなってきた模様です。
が、最後の攻防、各馬一斉に鞭が入ってのラストスパートだ。
おやっ? どうやらここでアクシデントが起きた模様です。
な、なんと、各馬が一つになってしまったではありませんか!
どれがどれだか見分けがつきません。
おやまあ、なんてことでしょう!
こんなことがあるのでしょうか!
これでは順位なんて誰にも着けられません。

ブーイングの嵐です。
わかります、わかりますとも、その苛立ち。
ですが、そこは水滴なので、どうしようもありません。
大めにみていただきたいものです。
これはいわゆるギャンブルではないのですから。

そこの赤鉛筆片手の熱狂的ギャンブラー諸君。
まあ、そこが水滴競馬の醍醐味なんですからお容赦を。
もちろん、払い戻しもありません。
そもそも、水滴で賭け事など、なにを狂ったことを!

てな訳で、世の中うまくはいかないもので、
ギャンブルなんぞほどほどにしていただいて、
ここは1+1=1などという哲学めいた言葉を
一つ噛み締めながら、ちょいと忙しい手を休めて
かように繰り広げられる透明なるものたちの叙情を
じっと眺めてみるのもオヅなものではありませんか。
それをいうならオツでしょう!
ってなわけで雨の日ならではの一コマに
愛ある乾杯と微笑みを!