ジョン・ハッセル追悼プレイリスト後編

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いまこそ、この賢者のトランペッターに倣いて、心の地図を広げよう。

歌モノとの数々のコラボーレーション作品を聴いて
ハッセルのその柔軟な対応力に改めて感嘆してしまうのだが、
テクニカルな面に関しては、ある程度推察できるのだとしても。
やはり、あの唯一無二な世界観の原型は、ひたすら瞑想を誘い、
スピリチャリズムにさえ通じる音楽体験をもたらす効能がある気がしている。
それこそ、アルバムタイトルのように、
「マジックリアリズム」とでもいうべく神秘的な側面を有しているのだ。

「この50年間で最も影響力のある作曲家だ」 という
イーノ先生のお墨付きのことばを添えるとしてその長い活動を紐解けば
元はと言えば、ホルガー・シューカイらとシュトックハウゼンに師事して、
実験的音楽の道を歩み出し、シェーンベルクの十二音技法や
テリー・ライリーやラ・モンテ・ヤングらとともにドローン、ミニマル音楽を追求し、
グループ「シアター・オブ・エターナル・ミュージック」を通しては、
プラン・ナートの下でインド声楽であるキラーナ・ガラーナ歌唱を学び、
影響を受けながら、あのマイルズ・デイヴィスの展開したエレクトリックジャズを
この「第四世界」のコンセプトで押し広げながら、
アンビエントミュージックの概念まで刷新してしまった
この摩訶不思議なトランペット共鳴音が
一つの知の体系に属するものでもあることがおのずと浮かび上がってくる。

最近のインタビューを読んでいて、一番ひっかかったのは
まさに、そういうことだ。
ひとりの老境にさしかかった賢者たるミュージシャンのテクニカル的なことや
経歴の総体は、ひとまずおいておいても、
この精神性こそは、その音の本質に通底しているわけで、
「自分が本当に心から興味があって好きなものは何なのか?」と自問するの重要性を
まずかかげて、おのおのの音楽体験の旅に出る、
まさに第四世界のミュージックナビゲーターとしてのジョン・ハッセルの偉大さに
こころから尊敬の念を覚える音楽家である。

Chor Moire:JON HASSELL

まず、この音を聴い欲しい。まるでハエかなにかが唸っているようにしか聞こえないのだが、この前衛的ミニマリズムが、ただ心地よいだけの音楽とは一線を記すハッセルの深みということなのだ。とはいえ、この『DREAM THEORY IN MALAYA』ではある種擬似的なフィールドワークを体感できる“心地よい”アルバムでもある。

Chor Moire:JON HASSELL

Chemistry: | Jon Hassel and Brian Eno

七十年後半から八十年代前半にかけ、ブラインアン・イーノとのコラボレーションによって「第四世界」のサウンドクリエーター第一任者としてのポジションが顕著になったハッセルだが、このアルバム『Fourth World Vol. 1 – Possible Musics』を聴けば、そこにはやはりイーノというフィルターを通して生じる化学的な結合が影響しているという側面もよくわかる。それはロックミュージックの根本的解体から、自動生成的(ジェネラティブ)へと移行する壮大な実験といえるだろう。

Dreaming:Jon Hassell

現代音楽からはじまってミニマル、ドローン、第四世界と、いろんな実験を繰り返し、そしてポップフィールドにも繰り出して、影響を与つづけてきたハッセルが、最後は結局ここ『Listening To Pictures’ (Pentimento Volume One)』にもどった。しかし、それは安定でも保守でもなく、もっとも自分の居心地の良い場所を知っているということの証だ。まるで、一枚の絵のようなサウンド。パレットの上で絵の具が混ざり合っような音の調和。長年の成果がここでみごとに展開され、調和を生む。素晴らしき世界、宇宙観の一つの到達点といっていいでしょう。

Dreaming:Jon Hassell

Hex:Jon Hassell

77年にリリースされたジョン・ハッセルの記念すべきデビュー作『Vernal Equinox』から。「第四世界」というコンセプトはあるにせよ、この曲を聴いていたら、ハッセルとマイルス・デイヴィスのやりたかったことは、そう遠くないなと思わせられる。よって、これって実はハッセル版のエレクトリックマイルスといえなくもないサウンドだ。七十年代の、なんとも刺激的で、実験的な最前線の音がここにはある。

Hex:Jon Hassell

Out Pours (Kongo) Blue (Prayer) :Jon Hassel · Farafina

西アフリカのブルキナファソのグループファラフィナとのコラボレーションアルバム『flash of the spirit』より。アフリカンな乾いたポリリズムのグルーブとの相性も、これまた完璧なまでにバッチリ。ハッセルのトランペット電子共鳴音は、ここでは文明の音、というより、完全にその中に溶け込んで、一体化したグルーブを形成している。

Out Pours (Kongo) Blue (Prayer) :Jon Hassel · Farafina

Voiceprint (Blind From the Facts) ( 808 mix ) :808 STATE Jon Hassell

第四世界のエレクトロニックなアンビエントから、一気にテクノ、ヒップホップへと流れ着いてしまう自然さ、そして凄さ。これが単なる飛躍でもなんでもないから、素晴らしいのひとことです。90年代に、All Saintsからリリースされた「City: Works of Fiction」より、ここは808によるmixの方を聞いてみましょう。より洗練され、親しみやすいバージョンになっていると思うな。

Voiceprint (Blind From the Facts) ( 808 mix ) :808 STATE Jon Hassell

Jon Hassell – Amsterdam Blue

例のごとく、音楽への愛、嗅覚が並外れて高いヴィム・ヴェンダースの映画『The Million Dollar Hotel』のサウンドトラックからの一曲。このアルバムがU2主体のロックサウンドばかりだったら、ここまでの反応は示さなかったんじゃないかと思うな。ハッセルの参加が大いなるアクセントになって、なんとナット・キング・コールのスタンダードナンバーをやっていても不自然な感じはしない。いつもの第四世界の雰囲気から解放されたノワールで、実にムーディーな雰囲気を醸し出していてそれがまた面白い。

Jon Hassell – Amsterdam Blue:『The Million Dollar Hotel(OST)』

Club ZombieJon Hassell & Bluescreen from『Dressing for Pleasure

ジャズとヒップホップの融合のクラブミュージックなんて、いまさら大騒ぎするようなことでもないんだけど、そこにはハッセルのもっているいろんな要素がごった煮でにじみ出しているから面白い。自由で、大胆で、未来的。でもどこかに必ず有機的要素をはらまして還元してしまうのがハッセル流。これはやられたな。ウン。今聞いても新しいし、格好いいなあと思う。

Club ZombieJon Hassell & Bluescreen

Last Night The Moon Came:JON HASSELL

『POWER SPOT』以来25年ぶりにECMレーベルからのリリースされた『Last Night The Moon Came Dropping Its Clothes In The Street』。クラシックでもジャズでもない、第四世界さえ超越したいかにもレーベルカラーにふさわしい音楽といいましょうか。ハッセルのほか、 Eivind Aarset (Guitar, Bass) Jan Bang (Sampling) Kheir-Eddine M’Kachiche (Violin)といった貴重な四人編成のバンドでの演奏動画を見つけたのでこちらをあげておきましょう。

IN-CTerry Riley 

ジョン・ハッセルに多大な影響を与えた音楽家のひとりテリー・ライリーの代名詞である『IN-C』。ハッセルのミニマリズムの原型がここにあるといえましょう。音の刺激や、個々のミュージシャンのプレイそのものにフォーカスされることなく、反復のなかで生まれる音の波、音のと音の秩序が全体の音楽を形成するといういみで、実に壮大な実験が行われているのです。

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