エリック・カール『はらぺこあおむし』のこと

はらぺこあおむし(The Very Hungry Caterpillar )
はらぺこあおむし(The Very Hungry Caterpillar ) エリック・カール 偕成社

それにつけても絵本はカール

絹(シルク)の肌触りって気持ちい良いっ。
そう思うことはありませんか? 
それはわたしのシ・ワ・ザなのよ。
その昔、小川紳介による養蚕のドキュメンタリー
『牧野物語・養蚕編』を観て、印象的だったのが、
いわゆる蛾の幼虫なわけだけど、これが意外に可愛いもんだと思った。
撮り方にもよるんだろうけれど、桑を食む蛾のお子様たちの姿はとても愛おしかった。
おまけに「おこさま」などと持ち上げられて、
せっせせっせと桑の葉を与えてもらってのお姫様待遇? 
ほんと大切に扱われているわけだった。

繭を作って繭の中で眠る、その名の通り天の虫。
それが“おこさま”だ。
ちっちゃなころはカブトムシや玉虫なんかも好きだったけど、
大人になったら、こっちのほうが好きになった。
そういえば、ゴジラシリーズだったっけか、
モスラっていたねぇ、などとひとりごとを吐く。
もちろんそこに糸(意図)などない。

ちなみに、モスラは幼虫の頃はさほど蚕と変わらぬ容姿であるが、
大人になると極彩色のけばけばしたヤマユユガという種の成虫を
モデルにした蛾の成虫になり、
ゴジラを苦しめるほどのモンスターへと変貌遂げるのだった。
さて、白い肌、くねくねの身、糸をつむぐ高貴な生き物である蚕のことを思うと、
養蚕っていう仕事がとっても魅力的に思えてきた。
部屋で蚕飼ってみようかしら? 
そして部屋に大きな繭を作ってもらってそこで眠るっていいよねえ。
ただそれだけだけど。まさに夢見るコクーン、コクーンから墓場まで……
なんて。思わず眉をひそめないでよね。

ところで、蚕のようなあからさまな益虫は後生大事にされるが、
春の野に羽ばたく蝶になるには、あおむし時代をヘなきゃならない。
アゲハの幼虫のみがもつ黄色いツノと汚臭の記憶は今でも強烈に残っている。
だが、醜いアヒルの子同様に、ここでイジメというか、
忌み嫌われ命を落とす未来の麗蝶達のことを思うと、
何だか切なくなってくるから可笑しい。
仮に鳥やら野生の昆虫達によって餌食にされるなら、
自然摂理に反しないからいいとしても、少なくとも人間の単なるエゴで、
無邪気なあおむしを撲滅させることだけは避けてやりたい。
あらゆる芋虫たちが、一匹でも順調に羽ばたけることを願うばかりだ。

そんなときに、癒されるのが、
アメリカの絵本作家であるエリック・カールの
ベストセラー絵本『はらぺこあおむし』である。
ちなみに、翻訳は39か国語に渡り、出版部数は5500万部を越えるというから
まさにキング・オブ・絵本である。
あおむしが蝶になるまでの過程を見事に絵本にした、
いわゆる仕掛け絵本となっている。
要するに、はらぺこあおむしが食べた部分に穴があいた作りで、
まさに視覚的で立体的な絵本なのだ。
内容はというと、日曜日に生まれたあおむしくんの食事を
土曜日まで順に1週間を追いながら、無事蝶へと変身する物語が描かれている。

小さな頃からこうした絵本を通して
生き物への親しみや優しさを体験することは、
情操教育において大切なことだと思う。
大人になっても、こうした絵本を手に取る時間があると、
思いがけない癒しタイムがやってくるのだ。

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